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国指定重要無形民俗文化財
伊予神楽
民間で行われる里神楽は、巫女神楽・出雲流神楽・伊勢流神楽(湯立神楽)・獅子神楽に分類される。そのうち出雲流神楽は、岩戸開きの神話などを脚色した仮面劇をともない榊などの採物を持つので採物神楽ともいわれる。伊予神楽は、この出雲流神楽に属し、ちかくでは八幡浜市の川名津神楽や八幡神楽、高知県高岡郡檮原町の津野山神楽などと同系統のものと考えられる。
元文三(一七三八)年八月宇城板島郷正一位八幡宮宇正之神主渡辺豊前守源応曹が編した「伊予神楽舞歌並次第目録」の序によると、もと「男神子四国神楽」と称していたが、伊予二名島(四国の古名)の古義にしたがって、「伊予神楽」と称したということである。
神楽の曲名は、最初の「天神地定祗、勧請太麻之事」から最後の「神送之神楽払共」まで、全部で三十五種もあり、夜間に奏上されるのが原則であるが、全曲を奏上するには、夜を徹して行わなくてはならない。神楽の奏上は、いずれも斎戒沐浴した神職によって行われ厳粛なものである。
その反面、上代日本人の気質が反映されていて、明るく楽しく、時としてユーモラスな感じさえする。悪魔払いを主題とする場合(例えば十三番の大蛇舞之事)でも、力づくで悪魔をやっつけるのではなく、神の威光で悪魔を従えるといった、和やかな、おおらかなものである。
笛の旋律も太鼓のリズムも軽快で、若い世代の人たちにも共感を呼ぶところが少なくない。市内や近郊の神社の春祭りには、伊予神楽が日中、一五番くらいの曲を選んで奏上される。
三五曲を全部演じるためには、舞・演技・所作・奏楽に独自の技術の習得を要し、老練者から若年者への指導と伝授が代々行われて来た。現在、伊予神楽伝承のため南予一円の神職十余名が定期的に練習を重ねている。