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県指定有形文化財(工芸品)
食籠 一合
食籠とは、食物を盛る漆器、今日でいえば重箱とか弁当箱にあたるが、これは、その昔高貴な人たちの間で用いられたものである。
大信寺蔵の食籠は、高さ二三cm、径一三cmの木製筒型である。身三重の上に蓋を重ねたそれぞれ印籠蓋造りの食籠で、最下部に高台をつけている。
総体は黒漆塗りで胴部一面と蓋の上面に藤の花を金蒔絵で描いている。藤の葉は互い違いに梨地、沃懸地の技法で描かれている。蓋と最下部の身には大きな銀杏面が取られ、これらと高台には南蛮風の異国趣味的な唐草文が平蒔絵の技法で描かれている。
仙台藩伊達家に伝えられていた蒔絵二重短刀箱(本間美術館所蔵 重要文化財)の外箱に表されている唐草文蒔絵の異国風な意匠と共通するものがある。桃山時代の作という短刀箱と同時代の作といわれ、特に藤文様の蒔絵技法は桃山時代に流行した高台寺蒔絵を受け継いだものであり、意匠もすぐれた食籠である。