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市指定天然記念物
テツリンジュ
テツリンジュはオオカナメモチ(バラ科カナメモチ属)の変種とされたが、現在はオオカナメモチ(Photinia serratifolia kalkm.)の名で呼ばれている。オオカナメモチは南方系の常緑高木で、宇和島市・奄美諸島・沖縄・中国南部・台湾・フィリピンに分布する。
テツリンジュは昭和三三年、宇和島市下波の三浦権現山で、下波中学校(旧宇和海中学校)の須山修光教諭によって発見された。その後多くの研究者による綿密な調査研究が行われ、四年後には岡山県備前市日生町でも発見(現在は絶滅)された。
昭和五一年発刊の『日本の樹木』(鹿児島大学教授・初島住彦博士著)には、オオカナメモチの変種として記載され、和名をテツリンジュと名づけられた。
〔生育環境〕テツリンジュは、宇和島市西部に位置する三浦権現山(四八九m)中腹の谷間に自生する。個体数は極めて少なく、絶滅が懸念される。生育環境は大変過酷で、急勾配の狭い岩盤上にわずかな株が根を張っているが、周囲は雑木やつる植物が繁茂し、土砂崩壊の危険性ある劣悪な地形である。テツリンジュの生える樹林の構成と生育環境はつぎの通りである。
〔中・高木層〕アラカシ・ウバメガシ・シロダモ・ヤブニッケイ・ホソバタブ・タブノキ・バクチノキ・ネズミモチ・ミミズバイ・タイミンタチバナ・テツリンジュ・ヒメユズリハ(以上常緑広葉樹)
イヌビワ・キブシ・アカメガシワ・ヤマザクラ・ハゼノキ(以上落葉広葉樹)
〔林内・林縁〕林縁には、イズセンリョウやイノデ・ホソバカナワラビ・コバノカナワラビ・クリハラン・イワガネゼンマイなどのシダ植物が広がる。林内の岩上には、カタヒバ・ヒトツバ・マメヅタが着生。ところかまわず、テイカカズラ・カギカズラ・サネカズラ・ホウロクイチゴ・アケビ類などの「つる植物」が勢力を張る。
オオカナメモチ(テツリンジュ)は国及び県の絶滅危惧1A類に指定されている。1A類というランクは「野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」である。全国的にも極めて珍しいこの貴重な植物を、「宇和島市の財産」として保護・繁殖させなければならない。生育地周辺の自然環境は年とともに悪化をたどっているので、その保全は今後の大きな課題である。