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令和4年度 華宵の部屋
(企画趣旨)
今回の「華宵の部屋2022」は、現在開催中の「えひめ南予きずな博」に関連して「きずな」をテーマに開催します。
大正から昭和戦前にかけての少年・少女雑誌には、たくさんの小説が掲載されています。内容は多岐にわたっていますが、通底するのは描かれる人間同士の様々な「愛」の模様です。
友情、家族、夢、貧困、運命、冒険、災難、希望、因習、病気、死、恋、将来、学業など、多様なテーマが散りばめられた当時の小説からは、大正の人々、特に少年少女たちの関心事や日常の営み、悩みなどが浮き上がってきます。物語は必ずしもハッピーエンドで終わるものばかりではありませんが、登場人物たちが助け合い、支え合って困難に立ち向かう姿からは、お互いへの信頼と深い愛情で結ばれた友人、家族、師弟など人間同士のつながり、そして人間関係にとって「愛」がいかに大切なものであるかということを考えさせられます。
高畠華宵はこのような少年少女小説に数多くの挿絵を描きました。代表作「馬賊の唄」は満州に連れ去られた父親を探す旅での日出男少年と友人たちの物語です。「芝太郎の手紙」は父親の仕事の都合で北海道へと引っ越さなければならなくなった主人公・芝太郎が、東京の学校での親友・慶ちゃんに新しい生活の様子を手紙で伝える小説です。慶ちゃんへの懐かしさと新生活の期待と不安が入り混じり、二人の友情の深さに心を打たれます。「破れ胡蝶」では、山の民である主人公の少女千代子を中心に、4人の少年少女が織りなす物語で、数奇な運命と残酷な社会に翻弄されながら、何とか助け合って生き抜こうとする群像劇です。
そのほか華宵は、「家族愛」「故郷愛」「友愛(友情)」「自然愛」など人間同士、自然と人間の「きずな」を感じさせる作品を数多く残しています。
今回の展示では、華宵が描いた「愛」や「きずな」がテーマの作品と、大正の少年少女小説の挿絵を紹介します。 これらの物語で展開される人々のつながりは、人間関係が希薄と言われる現代のわたしたちが、「愛とは何か」を考えるきっかけになるかも知れません。華宵が描くさまざまな愛のかたちから、大正人の愛情、友情そして「きずな」のありようをご覧いただければ幸いです。 (高畠華宵大正ロマン館)