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教育長通信「あおぞら」 vol.4 旅立ちの日に
別れの季節、旅立ちの季節と言われる3月。みなさんも、これまでに様々な場面でその風景を目にされてきたことでしょう。みなさんは、どんな場面が心に残っていますか。
私自身、長い教員生活の中で、卒業という旅立ちの日を何度も経験してきました。その中でも特に忘れられない旅立ちの日のことを、今回はお話しします。
令和2年2月27日。3月3日からの全国一斉休業が突然発表されました。あまりに衝撃的な発表で、思わず「嘘でしょう。」と声を上げていました。そのときに真っ先に気になったのが、「卒業式はできないかもしれない。」ということでした。
一斉休業まで残された日は翌28日金曜日と3月2日月曜日のみ。私たちは急いで休業に向けての準備を整えるとともに、3月中旬に予定していた「6年生を送る会」を3月2日に実施することを決めました。子どもたちに会えないまま、卒業の日を迎えてしまうかもしれない…。そんな私の思いに先生たちも応えてくれ、急遽の実施となりました。
「6年生を送る会」では、各学年の出し物やクイズなどで盛り上がり、全校で楽しい時間を過ごすことができました。会の終わりに、私から子どもたちにこんなメッセージを伝えました。
明日から学校はお休みになります。3月3日から3月25日までは臨時休業です。3月26日から4月7日までは春休みです。1か月以上の長い、長い、お休みが始まります。
本当ならば、3月は、お別れ遠足や6年生を送る会、卒業式や修了式を全校みんなで行う予定でした。みんなで楽しく過ごし、6年生の卒業を祝う予定でした。けれども、それがかないません。残念なことに、卒業式も修了式もできなくなりました。3月に学校にみんなで集まるのは、今日が最後です。
今、みなさんは、どんな気持ちでいますか。校長先生は、明日からみなさんの明るい笑顔が見られなくなる、みなさんの元気な声が聞けなくなるかと思うと、寂しい気持ちでいっぱいになります。
けれども、臨時休業になるのはなぜかと考えたとき、それは、みなさんの健康、命を守るためだと言い聞かせています。どうぞ、どうぞ、体に気を付けて過ごしてください。規則正しい生活を心掛け、先生や家の人の言われることをよく聞いて過ごしてください。
桜の花が満開のころ、6年生は中学1年生に、1年生から5年生のみなさんは学年が一つ上がっています。そのとき、また笑顔で会いましょう。
一斉休業に入っても、子どもたちの安否確認や居場所の確保、年度末の事務処理等に追われました。そんな中、感染防止対策を徹底した上で24日に卒業式を実施するという通知がきたときは喜びでいっぱいになりました。とはいえ、例年のような式の練習はできません。前日に6年生だけ登校させ、短い時間で簡単な練習を行いました。久しぶりの登校を喜ぶというよりも、翌日に控えた卒業式がきちんとできるか、そんな不安が子どもたちの表情に表れていたように思います。
そして訪れた卒業の日。保護者の方には、なるべく近くで子どもたちの顔を見てほしいと思い、体育館のフロアだけを使い、子どもと保護者が対面できるような式の形に変更しました。在校生や来賓の方の出席はありませんでしたが、旅立つ子どもたちを参列者全員で温かく見守りました。私は、子どもたち一人一人に卒業証書を手渡しできた感動を今も忘れることができません。
そのときに読んだ式辞です。
柔らかな春の日差しを浴び、桜のつぼみもふくらみを増しています。確かな春のおとずれを感じる今日この頃です。
27名の卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。
卒業生のみなさんと今日会えたことを、卒業証書が渡せたことを、直接「卒業おめでとう」と言えたことを、心からうれしく思います。
この一年間、みなさんはいろいろな感動を届けてくれました。運動会での見事な組体操や中心となってがんばった応援合戦、音楽発表会での心を一つにした演奏、学校行事や児童会活動など、最高学年としての役割を立派に果たしてくれました。みなさんの活躍する姿が、全校の誇りとなり、目標となりました。
翌日から臨時休業が決まった3月2日、私はみなさんに、二つの言葉を伝えました。とても大好きな言葉なので、もう一度みなさんにお伝えしたいと思います。
一つ目は、「志を高く掲げる」ということです。
みなさんに夢や目標はありますか。イチロー選手は、「夢や目標を達成するには一つしか方法がない。小さなことを積み重ねること。」と言っています。夢や目標をもつことで、自分を磨き、前に進んでいくことができます。そして、小さなことをこつこつと続けていくことで、その夢や目標は達成されていくのです。今回のように困難なことに出会っても、決してくじけることなく、一人一人が自分の人生を切り拓き、たくましく歩いていってくれることを心から祈っています。
二つ目は、「感謝の心を忘れない」ということです。
みなさんが、今こうしてあるのも、ご家族や地域の方々、先生や友達など、多くの人の支えや励ましがあったからです。今日は、みなさんのお祝いの日であるとともに、自分がこれまで生かされ、支えられてきたことに感謝する日です。これまで、みなさんを一生懸命育ててくださった家族の方々。自分のことのようにみなさんの成長を喜んでくださった先生方。みなさんの周りには、たくさんの愛情が満ちあふれている、そのことに気付き、感謝できるみなさんでいてほしいと思います。中学校でのみなさんの活躍と健闘を、心から祈っています。(中略)
新しい時代、令和の最初の卒業生となったみなさんが、大きく羽ばたいてくれることを祈り、式辞といたします。
式を終えた6年生の子どもたちの表情は晴れ晴れとしていました。子どもたちの旅立ちをみんなで祝うことができてよかったと心から安堵しました。
時は流れ、あれから5年が経ちました。その間にもたくさんの旅立ちがあり、そして、この春、新しい旅立ちを迎えるみなさんもたくさんいらっしゃるでしょう。
新しい道へと進まれるすべてのみなさんへ心からのエールを送ります。
このひろい大空へ 夢をたくして♪