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市指定有形文化財(彫刻)
木造薬師三尊像のうち中尊立像 一躯
この木造薬師如来立像(中尊)は、向かって右に日光菩薩、左に月光菩薩の脇侍を配しており、三尊形式の像である。
中尊は像高七八cm。寄木造で、頭部前面と胸前の肉身までを共木につくり、これを襟の内側に衣文の曲がりにそってはぎ合わせ胴部につないでいる。長くふっくらした顔、両眼にはガラス製の玉眼を入れており、眼光鋭く、人間の眼のようなリアルさを持っている。衲衣は、両肩を衣で覆う通肩で、襟は立っているが全体的に彫りが浅い。しかしながら翻波式の彫法も見られる。左手に薬壺をしっかりつかみ、右手は施無畏印を結んでいる。右足が少し前に出ており躍動的である。光背は円光で八葉の蓮花文の光心を持つが、像と同じ時の制作ではない。台座は蓮華座であるが、これも後に制作されたものであろう。厨子は古いが簡素である。
厳しさと深い慈悲を感じさせる尊像で、全体的に良くまとまっている。行基菩薩の作と伝えられているが、その特徴から鎌倉時代末期以後の作と考えられ、作者は不明である。
徳治二(一三〇七)年右馬之助三善朝臣散位が残した神田寄進状(高田八幡神社所蔵)の中に常光寺という寺名が出ており、この常光寺の本尊だったと伝えられている。寺は廃寺(年代不明)になったが、いまも現地に常光姓の家があり、寺にゆかりの人とみられている。現在は鴨田薬師堂に安置されている。
仏像は「目」、「耳」、「乳」などに霊験あらたかといわれ、足が不自由で杖をついてきた人が、祈願したところ足が立つようになり、杖を寄進して帰ったという伝説の杖が、最近まで残っていたが、いまは行方不明になっている。