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県指定有形文化財(彫刻)
木造薬師如来立像 一躯
宇和島市街の南郊に景勝地として名高い薬師谷渓谷があるが、その薬師谷の地区に薬師如来を本尊とした、東光寺という寺があった。
薬師谷という地名の由来は、この仏像の名前にもとづくものと考えられ、また谷の上にそびえている権現山の祭神、山高権現の本地仏は、この薬師如来であった。
東光寺は明治六年に廃寺となったが、幸いこの本尊は地区の集会所前のお堂に秘仏として大切に祀られている。
この仏像が大変立派なものであるということなので、当市出身の毛利久博士(当時は京都国立博物館勤務、元神戸大学教授・故人)に連絡し、昭和四〇年三月、鑑定していただいた。
その結果はまさしく平安時代の作になる古仏であった。像高一五〇cm、ケヤキの一木造り。頭の髪形や顔の大きな口、角張った顎、正面下半身のY字形衣文など、明らかに平安彫刻の特徴を示す一方、きれいなカーブを描いた両眉、おだやかな伏目勝ちの目、顔はうつむきで前方へ出され、体部はやや薄手で、側面観は、平安期とはいっても、藤原時代後期の作と見るべきである。作風には愛すべき稚拙さもあって、その頃の地方作であろうが、保存の程度は極めて良好で、とにかく宇和島市内に現存する最古の仏像として、貴重な文化財であることが明らかになった。